憲法改正と緊急事態条項のはなし パート9

災害時には緊急措置があるよ

前回の話 憲法改正と緊急事態条項のはなし パート8 緊急時も濫用防止

登場人物
 さら
 まこと
 麻衣(まい)
 蓮(れん) 
 店長

まこと「何を怒ってんだか。訳分からん」

蓮 「まあ、まことの言いたいことも分からなくもないが、言い方もあるだろ」

まこと「まあ、良いじゃん。直ぐに戻ってくるって」

麻衣「まったく、まことってば適当なんだからー」

まこと「そう言うなってばー。さらだって、理屈先行ですぐ怒るしさ、もっと鷹揚になれば良いのに」

蓮 「おいおい、そういう言い方は良くないぞ。さらにはさらの良さがあるんだからさ」

まこと「確かに、ちょっと口が悪かったな」

蓮 「まったく。おまえらは、昔からつまらないことで喧嘩するからな」

まこと「面目ない」

麻衣「まあまあ、もう子どもじゃ無いんだし、さらも頭が冷えたら、すぐ戻ってくるわよ」

蓮 「そういうことにしとこうや。で、まこと。さっきの続きはどうした?」

まこと「えっと、何の話だっけ?」

蓮 「ポケモンGOや入国禁止令の話だったろ」

まこと「あ、思い出した。そうそう、さっきから言っていたポケモンGOや入国禁止令の話が緊急事態条項の危険性なんだよ。例えば、犯罪者らしい人がいたら、容疑を固めてから逮捕するのでは無く、まず逮捕してから調べるようになる。その方が効率が良いからね。また、デマの流布がされると困るとして、政府以外の情報提供をすべて禁じるかもしれない。本当に市民の安全を思っているのかもしれないけど、政府は自由を必要以上に制限してしまいがちで、罰則を設けるにしても必要以上に重罰化しがち。また、不測の事態にそなえて、違法かどうか分からない行為まで、取り締まれるようにしてしまう。結局、市民は、取り締まりをされないように、必要以上に行動を制約してしまい、家族との会話にも気をつけるようになってしまう。しかも、総理大臣が全て聖人君子ではないので、権限を悪用する人も出てくるかもしれない。だから、さっきは、危険だと言ったんだ」

蓮 「今までの議論を聞いて、まことの意見を聞くと、なるほどって思うよ。内閣だけで全てが出来てしまうって言うことは、迅速な対応が出来る反面、自由がなくなっちゃう恐ろしさがあるんだな」

まこと「おー、分かってもらえたかー」

蓮 「悔しいがな」

麻衣「ねえねえ、今の話を聞いていると、さっき話しに出た、憲法改正の買収禁止の話みたいなんだけど」

蓮 「あ、確かに。お茶を出したり、ちょっと付加価値をつけたビラを配布したら処罰されてしまうから、友達の憲法改正の話も出来ないんじゃないかって話だったもんな」

まこと「その通りだね。本当は、憲法改正は、誰もが自由に議論できることが必要不可欠なんだ。それが、市民活動に制約を書けるような制度にしてしまった愚かさ。実際に、憲法改正されるまでには改善されないといけないと思う」

蓮 「ああ、その通りだな」

麻衣「本当にね。あ、そうだ、何だっけ、何とか措置って話はどうなったの?」

まこと「あー、緊急措置の話か」

麻衣「それそれ」

まこと「話があちこち飛んで、訳わかんなくなってきたよ」

麻衣「大丈夫、私は最初からよく分かってないから!」

蓮 「右に同じ!」

まこと「じゃあ、みんな一緒ってことだな。あっはっは・・・って、何か違うような・・・」

麻衣「まあ、いいじゃない。それより、続き続き」

まこと「はいはい、参議院の緊急集会とは別の、緊急時の制度って話だったよね」

麻衣「そうそう、そんな話」

まこと「緊急措置は、災害対策基本法に定められていて」

麻衣「なんだか、役に立ちそうな名前の法律ね」

まこと「緊急措置は、国会も参議院の緊急集会の招集も出来ない場合に初めて認められる、本当に緊急時の対応で、生活必需品の価格統制や配給、金銭債務の支払猶予について、内閣が、2年以内の懲役などの罰則を設けた政令を定めることが出来るとされているんだ」

麻衣「罰則があるから、委任命令ってことね。さらはこれが言いたかったから、色々話してたのか。やっとわかったわ」

蓮 「なあ、まこと。さっきの話だと、政令に委任できるのは具体的なことだけって話だったけど、これってかなり範囲が広くないか。生活必需品なんていったら、ありとあらゆる物が対象とされないか?」

まこと「そうなんだよ。かなり範囲が広いから、憲法に違反するんじゃ無いかという議論があったくらいだよ。でも、緊急時であるし、経済的自由の制限だけだし、その中で必要かつ合理的な制約なら仕方ないということで、憲法学者から合憲だとの意見が出されて、法律が制定されたんだ」

蓮 「経済的だけっていうことは、何か意味あるのか?」

まこと「ああ、経済的自由の方が、幅広い制限が許されるんだよ」

麻衣「どういうこと?」

まこと「簡単に言うと、自由に任せすぎると、金儲けだけを考える連中によって、人びとの生活が脅かされてしまうって事さ」

麻衣「買い占めとか?」

まこと「そういうこともあるね。他にも価格協定を結んで、安く売らないようにするとか。賃金を値切って、安くこき使うとか。何でもありにすると、みんなの苦境をネタにして、利益を上げようと企む人が出てきちゃう。だから、市民生活を守るために、普段以上に規制が必要とされているんだよ。平常時でも、労働時間の規制とか、最低賃金とか、独占禁止法とかみんなも知ってるような規制がたくさんあるでしょ」

蓮 「なるほどな。平常時でも規制が必要なところだから、非常時にはもっと強力な規制もやむを得ないということなんだな」

まこと「そういうこと。もっとも、やり過ぎは認められませんよって事」

麻衣「わかった! 緊急事態条項だと、人権が停止しちゃうから、必要以上の規制だろうが何だろうが、好き勝手にすることが出来るけど、今の緊急措置は、人権が停止してないから、必要な規制しかできないってことね」

まこと「そのとおり!」

麻衣「えっへん!」

蓮 「さっきは、緊急時に国会で全て決めるなんて現実離れしていると思ったけど、緊急時に、国会が対応できない場合のことを考えていて、ちゃんと法律が作られているんだな」

まこと「そうなんだ。日本は災害が多いから、大災害が起きるたびに、何度も何度も議論して、法律を整備してきたんだよ。だから、緊急時に必要だと思われる内容は、ほとんど法律で整備されているんだ」

蓮 「なるほど。ちなみに、憲法が改正されて、人権を停止させる緊急事態条項が出来た場合に、経済的なもの以外の規制って、何が考えられるんだ?」

まこと「分かりやすいところだと、トルコでもあったけど、政権批判をする報道機関の解散、理由のない逮捕・拘禁があるよね。また、強制労働も出来るし、拷問も可能という人もいる。後は、棄民もできるってことかな。

蓮 「拷問も可能になるのか?」

まこと「そう考えている人もいるってことだよ。今の憲法では拷問は絶対禁止とされているんだけど、これは戦前・戦中の特高による拷問があった反省や人格や尊厳の否定になるからなんだ。それから、国際条約でも拷問は禁止されてるんだ。それにどんな状況にあっても奪うことができない権利という考えがあって、その一つが拷問の禁止なんだ」

蓮 「ん? じゃあ、拷問は認められないんじゃないのか?」

まこと「それがな、自民党改憲草案を見ると、拷問は一定の場合に認められると考えているとしか思えないんだ。今の憲法は拷問を「絶対にこれを禁ずる」とあるんだけど、自民党改憲草案だと、『絶対を』削除して、単に「禁ずる」としている」

蓮 「敢えて『絶対』を削除したと言うことで、例外的に許される余地を作ったってことか」

まこと「そういうことなんだ」

蓮 「なるほどな。自民党改憲草案ってのは、人格の否定までもやろうとしているのか」

まこと「正直、ふざけるな、って言いたいところだ」

蓮 「同感同感。じゃあ、棄民って話は?」

まこと「何らかの災害や攻撃があり、市民が被害を受けた。でも、きちんと情報公開してしまうと、日本全土がパニックになって日本の経済活動がマヒしてしまい、国家として重大な損失が生じてしまう。しかし一方で、完璧に情報統制して、被害地域を隔離封鎖すれば、被災地以外は通常の経済活動が行われる結果、国家全体としての損失は小さく済む。さて、経済や効率のみを考えた場合に、政府はどっちを選ぶと思う?」

蓮 「いやいや、それ比較対照がおかしいでしょ。人命尊重。ちゃんと情報公開して、国を挙げて被災住民を救助しないと」

まこと「ところが、緊急事態条項ってのは、人を守るためではなく、国を守るためのものなんだ。だから、国家の利益を第一に考えて、後者を選ぶ総理大臣がいてもおかしくないでしょ。緊急事態条項には、人はいくら死んでも、国さえ守ればそれでいい。国が滅んでしまえば、人を守るための国家も無くなってしまうぞ。っていう、脅しのような思想が根底にあるんだ」

蓮 「国が滅んでしまえば誰も守ってくれない、だからある程度の犠牲は仕方ないってことはその通りだなって思うけどさ。だからって、人はいくら死んでも良いって事にはならないだろ」

まこと「普通はそう思うとこだよね。人命軽視はおかしいって。でも、戦時中に実際にあったんだ。終戦間際の1944年に東南海地震が、翌45年に三河地震が起きて、それぞれ死者1000人を超す大きな被害を受けたんだ。でも、敗戦色が濃くなっていた時期だし、軍事工場が被災したこともあって、被害を隠すことが国のためになると考えた軍による報道管制が敷かれた。その結果、近隣からの応援も、政府による組織的な救助もされなかったため、被害が更に大きくなったんだよ」

蓮 「戦時中とはいえ、本当に棄民のようなことをしてたんだ。知らなかった」

まこと「同じようなことをさせないためには、緊急時であっても、人権の停止させる権限を与えてはならないと思わない?」

蓮 「そう言われると、そんな気もするな」

まこと「国に対し、国が個人を守ることを強制しているのが憲法なんだ。国を守るために、人びとを犠牲にする政治は、70年前に決別したはずだと思うんだよね」

蓮 「沖縄を焦土とし、各都市を空襲され、広島長崎に核兵器を落とされても、政府は、人びとの命を救うことを考えず、なお国体護持の議論をし続けていた時代か」

まこと「うん。そうなってしまう可能性がある限り、反対しないといけない。と俺は思うんだ」

蓮 「なるほどなぁ。まことが緊急事態条項に反対する気持ちが分かったよ」

憲法改正と緊急事態条項のはなし パート10 国会議員の任期延長?につづく・・・

憲法改正と緊急事態条項のはなし  パート1 プロローグ
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート2 憲法改正って何?
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート3 憲法改正手続って問題だらけ
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート4 憲法改正なのに、市民活動に罰則が!
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート5 緊急事態条項ってなに?
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート6 危険がひそひそ緊急事態条項
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート7 緊急事態条項って、いる?いらない?
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート8 緊急時も濫用防止!
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート9 災害時には緊急措置があるよ
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート10 国会議員の任期延長?
憲法改正と緊急事態条項のはなしパート11(完) デマに流されないで

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