憲法改正と緊急事態条項のはなし パート6

危険がひそひそ緊急事態条項

前回の話 憲法改正と緊急事態条項のはなし パート5 緊急事態条項ってなに?

登場人物
 さら
 まこと
 麻衣(まい) 
 蓮(れん) 
 店長

さら「あー、冷たくて美味しい☆」

蓮 「やっぱり夏はかき氷だよな」

さら「ここのかき氷は天然の氷を使ってるから、ふわふわで美味しいわね」

まこと「ほんとほんと、さいこ〜だね」

麻衣「あ〜。美味しかった」

蓮 「食べおわった後の、ほうじ茶がまた良いよな」

麻衣「そうそう、ほうじ茶の香りは幸せの香りよね」

さら「麻衣は詩人ねぇ」

麻衣「てへっ」

まこと「さてさて。落ち着いたところで、さっきの続きなんだけどさ。麻衣と蓮は、人権の制限と停止の違いってわかる」

麻衣「え・・・わかんない」

蓮 「同じような気がするけど、違うのか?」

まこと「うん。全然違うんだ。人権の制限っていうのは、今も普通に行われていることだよ。例えば、表現の自由といっても、何を言っても許されるわけじゃないでしょ」

蓮 「悪口はダメだよな」

麻衣「嘘もついちゃダメよね」

まこと「うん。何でもありではなく、ルールがあるよね。全くでたらめなことを言って、相手の名誉を傷つけたら、名誉毀損罪になるでしょ。これって、人の名誉を守るために、表現の自由を制限しているんだ」

蓮 「えっ、それが人権の制限なの? 言葉で他人を傷つけちゃいけないなんて、当たり前の事じゃん」

麻衣「そんなに特別なことなの?」

まこと「それじゃ、政治家が賄賂もらってたって報道することも、政治家の名誉を傷つけたと言って、同じように犯罪になると思う?」

蓮 「それは、賄賂をもらう方が悪いんだから、名誉毀損罪にしちゃマズいだろ」

麻衣「それで犯罪になったら、政治家はやりたい放題になっちゃうわ」

まこと「そう思うよね。だから名誉毀損罪は、名誉を傷つけても、犯罪にならない場合を認めているんだ」

蓮 「わかった。今度は、報道を守るために、名誉に制限を加えるわけだな」

まこと「ピンポーン。表現の自由も、人の名誉も、どちらも重要な権利でしょ。でも、それぞれの利益が衝突する場面になったら、どちらかが折れないと、社会が治まらない。だから、どちらかの権利に譲歩してもらう。それを公共の福祉による制限って言うんだ」

麻衣「あ〜。公共の福祉って、なんか聞いたことある」

まこと「他にも色々なところで公共の福祉による制約があるんだ。人が自由に生きるためには、自由に行動できることが必要だよね。だから、人身の自由が保障されている。でも一方で、犯罪を犯した場合に、令状に基づき逮捕されるなど、自由には一定の制約がある。また逆に言えば、人身の自由があるから、例え犯罪を犯しても、法律の定める手続きによらなければ逮捕・拘留されないとも言えるね」

蓮 「犯罪を犯したことが明らかなのに、手続きを守らなければならないのか? それって秩序維持に問題があるような気がするんだけど、やっぱりそれなりの意味があるのか?」

まこと「犯罪を犯したことが明らかだと、誰が判断すると思う?」

蓮 「そりゃ、警察だろ」

まこと「警察の判断って、絶対に間違えないと思う?」

蓮 「絶対とは言えないな。えん罪事件とか誤認逮捕とか聞くもんな」

まこと「ちゃんとした証拠もなくって、警察の思い込みから逮捕されたらどうする?」

蓮 「アリバイを調べたり、真犯人を見つけたりして、解放してもらう。かな」

まこと「でもさ、アリバイって証明するのかなり難しいよ。何をしていたか覚えてなかったらそれまでだし。ちゃんと覚えていても証拠が無いかもしれないし。証拠があっても、信用してもらえなかもしれない。それに、真犯人見つけるなんて現実は不可能だろ。そうすると、結局警察の判断で解放されるのを待つしか無い、ってことにならないかな」

蓮 「そう言われると、そうかもしれないな」

まこと「また、うまくアリバイを証明できたとしても、警察の思い込みで不要な逮捕をされたこと自体が問題でしょ」

蓮 「確かに」

まこと「あと、警察に悪い人がいて、点数稼ぎとか、気に入らない人がいるからとか言った理由で、犯人じゃないとわかっていても、逮捕する警官がいるかもしれないじゃん。それをどうやって止めたら良い?」

蓮 「うーん、無罪の人を陥れるためにかぁ。それはどうしようもないな。逮捕する前に、他の人にチェックしてもらうとかかな」

まこと「そういうこと。やっぱり第三者のチェックをすべきだよね。さっき言った法律の手続きってのは、適正手続きの保障っていうんだけど、簡単に言うと、捜査機関ではない裁判所が、ちゃんと逮捕する要件がそろっているかチェックするって事なんだ。裁判所から令状をもらって、初めて逮捕が出来る。そうすることで、不要な逮捕をなくすことができる。結果的に、個人の自由が守られるって仕組みなんだ」

蓮 「なるほどなぁ」

まこと「ね。人権の保障とか、人権の制限って、特別の事じゃ無くて、普通のことでしょ」

蓮 「ああ、何となく分かってきたよ。今の社会で行われていることが、人権の制限なんだろ」

まこと「そういうこと。ところが、人権の停止になるとどうなると思う?」

蓮 「人権の制限と停止の違いって事か。停止って事は、一時的に止めるって事だから、あまり違いは無いと思うんだけどな」

まこと「ところがぎっちょん大違い。人権の停止は、一時的に人権がなくなっちゃうことなんだ」

蓮 「なくなっちゃう?」

まこと「そう、なくなっちゃうってこと。さっき話した、表現の自由も、人身の自由もなくなっちゃう。だから、例えば、表現の自由がないんだから、政権批判をしたら、それだけで罪にすることができる。また、人身の自由もないから、警察が犯人だと思ったら自由に逮捕することが出来るってこと」

蓮 「いやいや、さっき、それはまずいって話をしたばっかりだろ」

まこと「うん、まずいんだよね。例えば、去年トルコでクーデター未遂があっただろ。あの後、非常事態宣言が出されたんだけど、クーデター未遂の容疑者をとらえるという名目で軍・警察・司法関係者を1万人以上拘束して、その他公務員を合わせると、6万人以上拘束・解雇したんだ。それに、新聞、テレビ、ラジオ、出版社など130以上に閉鎖命令をだして、報道させないようにしたんだ。これは全部、非常事態宣言による、人権の停止によるものなんだ」

蓮 「それって、独裁政治による粛正じゃん。報道させないようにして、好き勝手やろうとしてるだけじゃん」

まこと「俺もそう思う」

蓮 「いやいや、そう思うじゃ無くて、ダメでしょ。こんなの。・・・でも、なんでそんな危ない権限が設けられてるんだろう。最初っから憲法に記載してなきゃ良いのに」

まこと「うーん、何でだろ」

蓮 「なあ、さら。何で、こんなのが設けられちゃうんだ?」

さら「!? ・・・・げほげほ」

麻衣「ほら、さら。お茶お茶」

さら「ありがとう。・・・ごくごく・・・。あ〜。びっくりした。急に話を振らないでよ。ケーキがのどに詰まったわ」

蓮 「ごめんごめん。っていうか、いつの間にケーキを頼んだんだよ」

さら「あ、これは店長のサービス。試作品なんですって。美味しかったわ〜」

麻衣「確かに美味しいけど、ちょっと酸味が効き過ぎだと思うわ」

まこと「どれどれ、俺にも味見させてよ。・・・もぐもぐ、あ、確かに酸味が強いかも」

蓮 「俺にもよこせよ。・・・もぐもぐ。こんなもんじゃないか。・・・って、いやいや、ケーキじゃなくてさ、緊急なんとか、だっけ。あれは何で設けられてるんだ」

さら「緊急事態条項が何故設けられるのか、ね。そうねぇ、歴史的なものとか、状況が必要としているとか、憲法上何らかの根拠規定をおいておくためとかかな」

蓮 「どういうこと?」

さら「もともと国家って、何でも出来る国王とか皇帝がいたでしょ。その権限が解体されて、憲法の縛りを受けて、民主化されて、今みたいな国になったのね。でも、民主化って、それまで国王とか皇帝が決めていたことを、議会において自分たちで決めなきゃいけない。でも、特に初めて民主制に移行する場合なんて、議会に任せるなんて不安だし、そもそも議会を信用しないわけよね。だから、こういう権限を行政に与えておくことが、国を運営する上で必要だし、安心だと思ったんじゃないかと思うの。ドイツのワイマール憲法なんて、そんな感じで設けたのよね」

まこと「ワイマール憲法の場合、国家緊急権が乱発されて、議会自体がその意味を失っていった側面があるよね。そして最後にヒトラーに濫用されて、ナチスの独裁になっちゃった、と」

さら「そうね、どうしても濫用の危険は避けられないところね。他には、内戦が続いた後に成立した国などでは、再び内乱が勃発し、混乱状態に陥る可能性が高いわよね。そういう時に、内乱に対処するための方策を考えるために、全国から議員が集まって、時間をかけて議論するなんて迂遠なことをしてられないわよね。迅速な対応が取れないと、内乱に対処できず、せっかく作った政府が瓦解してしまうことになってしまう。だから、国の形が安定するまでは、内乱などに対して迅速な出来るように、緊急事態条項を設ける例が多いんだと思うわ」

蓮 「なるほど」

まこと「他には、どうせ非常事態になったら権力は暴走するんだから、歯止めとして、権限の上限や期限を定める意味で、緊急事態条項を設けた方が良いという意見もあるけどね。」

蓮 「でもさ、何も無いところに、新しい条項を設けたら、権限が拡大したと言うことになって、歯止めにならず、かえって暴走を招くんじゃないのか?」

さら「私もそう思うの。日本の場合は、緊急事態条項を設けてしまうと、今まで無かった権限を与えたことになってしまい、権力に好きにやって良いという誤ったメッセージになってしまうと思うの」

まこと「そうそう。俺もそう思う。緊急事態条項の話で、他の国にはある、みたいな話がよくされるけどさ、他の国と日本とでは状況が違うんだから、日本に緊急事態条項が必要なのか、設けた場合にどんな問題があるのか、ってことをちゃんと考えないといけないと思うんだよね」

憲法改正と緊急事態条項のはなし パート7 緊急事態条項って、いる?いらない?につづく・・・

憲法改正と緊急事態条項のはなし  パート1 プロローグ
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート2 憲法改正って何?
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート3 憲法改正手続って問題だらけ
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート4 憲法改正なのに、市民活動に罰則が!
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート5 緊急事態条項ってなに?
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート6 危険がひそひそ緊急事態条項
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート7 緊急事態条項って、いる?いらない?
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート8 緊急時も濫用防止!
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート9 災害時には緊急措置があるよ
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート10 国会議員の任期延長?
憲法改正と緊急事態条項のはなしパート11(完) デマに流されないで

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