憲法改正と緊急事態条項のはなし パート3
憲法改正手続って問題だらけ
前回の話 憲法改正と緊急事態条項のはなし パート2 憲法改正って何?
登場人物
さら
まこと
麻衣(まい)
蓮(れん)
店長
麻衣「でも、普通の選挙にも最低投票率がないんでしょ。政治に無関心な人が多いのはどちらも変わらないんだから、憲法改正も同じで良いんじゃ無いの?」
さら「通常の選挙と憲法改正じゃ、その影響力が全く違うのよ」
麻衣「どうちがうの?」
さら「まず、憲法は国の根幹を決めるものだから、慎重にする必要があるというのはわかるかしら」
麻衣「うん、それは何となく分かるわ」
さら「それから、通常の選挙の結果に問題があるとみんなが思ったときは、支持率の低下による内閣の総辞職や、次の総選挙による是正が可能よね」
麻衣「うん、今までもそうやってきたものね」
さら「でも、憲法改正をやり直すためには、何が必要だと思う?」
麻衣「何って・・・、もう一回憲法改正をするだけでしょ」
さら「そのもう一回をするための条件を整えるだけで、かなり難しいの」
麻衣「どういうこと?」
さら「一度憲法改正がされたってことは、是正しようとする立場は、国会の少数派よね」
麻衣「それは当たり前じゃない」
さら「ということは、その少数派が、両議員の3分の2まで勢力を拡大しないと、是正をするための条件が整わないということになるわよね」
麻衣「そっか、多数派と少数派が入れ替わらないといけないのね」
さら「そういうこと。しかも、今回の選挙で、戦後初めて改憲勢力が衆参3分の2を超えたことでわかるように、選挙で大勝し続けるのは大変だし、議席を3分の2以上獲得すること自体がめったにないのよ。それを考えると、少数派が、衆参両院で3分の2まで増やして、間違った憲法改正を是正することは、不可能では無いにせよ、至難の業だと分かってもらえるかしら」
麻衣「なるほどね。わかったわ。普通の選挙と憲法改正の投票の意味が違うなんて、考えたこと無かったわ」
さら「ついでに言うと、もし表現の自由や選挙に関する事項が変えられてしまったら、是正する手段を奪われてしまう可能性もあるわ」
麻衣「あ、そっか。そもそも憲法改正前と同じことができるとは限らないのね。そうすると、憲法改正の場合は、普通の選挙よりも、長期に渡る影響について、真剣に考えないといけないってことじゃない?」
さら「そう思うわ」
蓮 「なあ、さら。俺たちは、選挙と憲法改正の国民投票の意味の違いを初めて知ったけど、普通はこんな話知らないんじゃ無いか?」
さら「確かにそうね」
蓮 「そういう問題意識を、マスコミはきちんと報道してくれるんだろうか?」
さら「その通りなのよ。憲法改正の議論が開始されても、マスコミがきちんと報道しなければ、無関心な人が増えてしまい、いつもの選挙と同じように棄権でいいやって思う可能性が高いわ」
蓮 「それって、マスコミが改憲に手を貸していることになるんじゃないの?」
さら「結果的にそうなってしまう可能性があるわ。もちろん、今回の選挙はたまたまマスコミが選挙を盛り上げなかっただけで、憲法改正についてはきちんと報道してくれる可能性はあるけど」
蓮 「でも、同じようなことをされてしまう可能性もあると」
さら「そうね。残念だけどその可能性が高いと私は思っているの。しかも、今回以上に問題なのは、憲法改正の投票に際しては、憲法改正に賛成する立場からの広告が多くなる可能性が高いの」
蓮 「ん? どういうこと?」
さら「選挙の際は、NHKで政見放送を流していることは知っている?」
蓮 「ああ、一応は。つまらないから、ほとんど見たことないけどな」
さら「憲法改正の際も同じように改正内容の説明や意見がテレビなどで流されるの。詳しく言うと、国会で憲法改正の発議がなされると、衆参議員からなる国民投票広報協議会が組織されて、無料で、テレビ、ラジオ、新聞などの媒体を使って、賛成政党と反対政党の意見と共に、憲法改正案の要旨や説明をできるようになるのね」
蓮 「それって、賛成意見と反対意見の両方が広報されるってことじゃないの?」
さら「政党の意見は賛否両方が行われると思うわ。でも、憲法改正案の要旨や説明はちょっと違うの。要旨などを作成する協議会は衆参両議員から各10名ずつで構成されるんだけど、おおよそ各政党の獲得議席数によって割り当てが決まるの」
蓮 「あれ? そうなると、憲法改正が多数派だから、必ず改正派が多数を占めることにならないか?」
さら「そのとおり。しかも、憲法改正は3分の2で発議されるので、少なくとも賛成派が3分の2以上を占めることになるの」
蓮 「そうすると、いくら公正を期すように求められても、現実の広告の内容は、賛成意見が前面に出て、反対派の意見はあまり出されないってことか」
さら「そう思うわ」
麻衣「ねえねえ。選挙の時って、各政党ごとにお金を出してテレビCMを出してるんでしょ。同じように、お金出してテレビ広告は出せないの?」
さら「スポットCMと言われる広告を出すことができるわ。国民投票は、色々な意見が反映されるべきだから、通常の選挙の際よりも、有料広告の規制が少なめになっているの。だから、基本的にテレビ、ラジオ、新聞、雑誌などで自由に賛成、反対意見が出せるようになっているわ。」
麻衣「無料の広告では賛成意見が多かったとしても、そのスポットCMで反対意見が多ければいいんじゃない。規制がないのは良いことなんでしょ?」
さら「確かに、反対派が反対派よりも資金的に圧倒的に優位であれば、対等にまで持って行けるかもしないわ。でも、逆に賛成派が資金的に優位だったら、圧倒的な差になってしまうわ」
麻衣「なるほど、そういう危険性もあるのね」
蓮 「なあ、テレビCMって、影響が大きいじゃないか。例えば、出演する俳優さんの好感度によって商品の売れ行きが変わるとかよくあるじゃないか。タレントを使った大々的なCM合戦になっちゃうと、本来の改正の意義とか問題点とかが隠されちゃう可能性があるんじゃないのか?」
麻衣「あー、そうかも。あたしも好きな俳優さんがCMに出てると、ついつい『買わなきゃ!』って思うもの。その商品が他より良いかなんて、気にしたことなかったわ」
さら「そういう側面はあると思うわ。テレビCMって、15秒や長くも1分くらいよね。中身の議論ではなく、印象しか伝わらないでしょ。それが四六時中流れていたら、みんな『何となく』って流されちゃわないかしら」
麻衣「でも、憲法が一度変わっちゃうと、元に戻すことは大変だから、本当は長期的影響まで考えて、冷静に判断しないといけないんでしょ」
さら「その通りだわ。しかもそんなに考えている時間はないの」
麻衣「時間がない?」
さら「国会で憲法改正の発議がされた後、早ければ2ヶ月で投票することになっているの」
麻衣「2ヶ月って結構時間があるような気もするけど。短いの?」
さら「短いと思うわ。もちろん、国会で細かい問題点まで網羅した議論がされて、それが逐一報道されて、人々が国会審議の間から考えているなら、何とかなると思うの。でも、3分の2という大多数が憲法改正に賛成するような状況って、反対意見の少数派は審議時間も少ないし、多数派が細かい議論を無視して採決してしまう可能性があるわ」
麻衣「参院選のときにマスコミは争点隠しをしてしまったように、問題点をきちんと伝えてくれない可能性もあるわね」
さら「そうね。しかも、憲法改正の発議後は、有料広告が大手を振って行われるでしょ。テレビ・ラジオ等で、タレントを使って、改正賛成をすれば暮らしがよくなる、明るい未来が訪れるという印象のCMなどが沢山流される。そういう時の2ヶ月なんてあっという間に経ってしまうわ。そこでの投票って、冷静に考えた結論よりも、雰囲気に流されて投票してしまう可能性が高くないかしら」
麻衣「確かに、そうかも。一度クールダウンするためには、時間が必要よね」
さら「一応クールダウンのためにと、投票前の14日間に限りスポットCMが制限される期間が設けられているわ」
蓮 「おいおい。それって逆に言うと、スポットCMが自由に行われている状況では冷静な判断はできないって、認めてるんじゃん」
麻衣「意味わかんないよ。最後の2週間だけで冷静に判断しろって言われたって、無理だってば」
さら「わたしもそう思うわ。でも、今はこの制度によって改正手続きが進められてしまう。だから、もし憲法改正の議論になった場合は、国会審議が始まる前から、情報を集めるなどして、冷静に考えておく必要があると思うの」
麻衣「できるかな。あまり自信ないな」
蓮 「俺も、正直自信ないわ」
さら「そういう人は多いと思うわ。でも、『何となく』に流されないためには、普段から、考える癖をつけるしかないと思うの」
蓮 「考える癖か・・・、そういうのって苦手だな」
麻衣「あたしも」
さら「そういう人のために、代わりに考えてくれて、わかりやすく説明してくれる報道機関の重要性があるのだけど」
麻衣「報道機関は、その責務を果たしてくれてないってことね」
さら「そういう危惧があるわ」
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート4 憲法改正なのに、市民活動に罰則が!へつづく・・・
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート1 プロローグ
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート2 憲法改正って何?
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート3 憲法改正手続って問題だらけ
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート4 憲法改正なのに、市民活動に罰則が!
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート5 緊急事態条項ってなに?
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート6 危険がひそひそ緊急事態条項
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート7 緊急事態条項って、いる?いらない?
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート8 緊急時も濫用防止!
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート9 災害時には緊急措置があるよ
憲法改正と緊急事態条項のはなし パート10 国会議員の任期延長?
憲法改正と緊急事態条項のはなしパート11(完) デマに流されないで