職員に10万円の寄付前提で予算を組むことは、地方財政法第4条の5に反し、違法ではないか
noteに記事を書きました
職員に10万円の寄付前提で予算を組むことは、地方財政法第4条の5に反し、違法ではないか
以下、内容をここに転記します。
1.はじめに
兵庫県加西(かさい)市が、市職員全員からの寄付を前提にコロナ対策の予算を編成し、市議会も了承したという記事を見た。
兵庫県加西市が職員の「10万円」寄付前提でコロナ予算 市職員「体のいいカツアゲ」
私は、10万円の寄付を職員に強いることは、違法であると考えている。
ところが、違法であるという見解を見かけないので、私の考えが間違っているかもしれない。そうであれば、是非ご指摘いただきたい。
2.「地方財政法 第4条の5」について
さて、地方財政法には、住民に対する割当的寄付金等の禁止を定めた条文がある。
地方財政法 第4条の5
「・・・地方公共団体は他の地方公共団体又は住民に対し、直接であると間接であるとを問わず、寄附金(これに相当する物品等を含む。)を割り当てて強制的に徴収(これに相当する行為を含む。)するようなことをしてはならない。」
手元にある、『奥田義男編 実務地方自治法講座 財務(1)』 185〜186頁には、
『「住民からの寄付金は、地方公共団体と住民との間の財政秩序の維持という観点から重要な問題をはらんでいる。すなわち、地方公共団体がその行政活動を行うために必要な経費の財源は、租税、分担金、使用料、手数料等の形で、それぞれ法令の根拠に基づいて住民に負担を求めるのが原則である。もとより、住民がその自発的意思に基づき、寄付金により地方公共団体の行政活動に資するために特定の負担をすることは、否定すべきものではなく、形式、実質ともに自発性、任意性が確保されるならば、特段これを規制する必要もない。しかしながら、住民の自発的意思に基づく負担、すなわち寄付金等の名目により、法令の根拠に基づかないで、地方公共団体が住民に負担を求めている場合が少なからずある。これはいわゆる税外負担と呼ばれるものであるが、法令の根拠に基づかないことから、その負担が合理的基準によらない場合が多く、負担の公平さを欠くことがあることや、任意の寄付金という形式はとっていても実質的には社会的強制が加えられる場合もあることなど問題が多(い。)』
『「『割り当てる』ということは、当然、強制の意味を含むものであるので、本条はこの『割り当てる』行為自体を禁止し、あわせて『強制的な徴収(これに相当する行為を含む。)』を禁止しているのである。したがって、割り当てをしても強制的に徴収しなければよいと解してはならない。「『強制的に徴収』とは、権力関係又は公権力を利用して強圧的に寄付させるという意味であり、応じない場合に不利益をもたらすべきことを暗示する等社会的心理的に圧力を加える場合をも含むものである。」(石原信雄「地方財政法逐条解説」41〜42頁)』
との記載がある。
本条は、「地方公共団体と住民」との関係について述べたものであり、「地方公共団体と職員」に直接適用されるものではない。しかし、権力関係又は公権力を利用して強圧的に寄付させることは、合理性や公平性を欠くことから禁止されるという、この条文の趣旨は、そのまま「地方公共団体と職員」についても妥当する。
また、本条における「住民」とは、地方公共団体が、権力関係又は公権力を利用して、直接的または間接的に寄付を強制することが可能である主体、という趣旨であると考えられる。そして「職員は、その職務を遂行するに当って、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、かつ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない」(地方公務員法第32条)のであるから、職員に対し、地方公共団体が、権力関係を利用し、直接的または間接的に強制することが可能である。従って、本条の「住民」に含まれると考えられる。
そのため、職員に対しても、本条が直接適用されると考えられる。仮に直接適用ができなくても、少なくとも類推適用されると考えられる。
3.加西市職員の寄付について
これを前提に、加西市の職員による寄付について検討する。
記事によれば、「5月11日の加西市臨時市議会で、ひとり親家庭支援や中小企業救済の基金設置が決まった。積立金は7750万円。うち西村市長と市議らの報酬減額と、西村市長ら特別職3人の夏のボーナス返上によって計2165万円を捻出した。残りの約5585万円は、約600人の市職員から10万円ずつの寄付で賄うという」。
『加西市 第282回臨時会(令和2年5月議会)議案第42号「令和2年度加西市一般会計補正予算(第2号)について」』によれば、新型コロナウイルス感染症対策基金費として7750万円が計上され、そのうち6050万円が新型コロナウイルス感染症対策費寄付金からとなっている。
また、『平成30年 加西市人事行政の運営等の状況』によれば、2年前の平成30年度の職員数が632名である。減少傾向にあるが、現在も大体同じくらいの人数であると考えられる。
従って、記事の通り、約600人の市職員に対し、10万円ずつの寄付をするという割り当てがされていると考えられる。
これは、本条で禁止する、市職員全員に対する寄付を『割り当てる』行為に該当する。上記で引用したとおり、割り当てをしても強制的に徴収しなければよいと解してはならない。
従って、西村和平市長の言う「寄付は任意で強制ではない」という主張は間違いであり、市職員全員に寄付を強制したことに他ならない。これは本条に反し違法であると考えられる。
結論として、加西市は、違法に、寄付を強要したのであるから、速やかに寄付をした職員に返金すべきであるという結論になるのではないだろうか。
4.終わりに
今回の論考を書いたのは、地方公共団体が、その費用を捻出するときに、職員に寄付を呼びかけるという、異例の手段を執ることへの違和感がきっかけである。
特別定額給付金の給付対象は、市民一人一人であり、その用途は、個人の自由意思に任されるべきである。ところが、広島県の湯崎英彦知事が職員などに寄付を求める意向を示した。これは、抗議を受けて撤回されたが、加西市は実際に予算化してしまった。特定の政策目的のためとはいえ、自治体が、人事権や懲戒権を背景に、職員の給付金を奪おうとすることは、やはり許されるべきではないと考えている。
どんなに市民のために良い政策を実現しようと考えても、職員一人一人も個人として尊重される人間であることを無視してはならない。
そこで、何か根拠となる条文がないかと探したのが、本稿で扱った、地方財政法第4条の5である。
本条は、寄付名目でも割り当てたらダメだというわかりやすい内容である。そのため、私と同じように、職員に対する寄付要請は違法だと述べている人がいるだろうと思い、Googleで 「地方財政法 第4条の5 コロナ 寄付 違法」のキーワードで検索をしてみたが、同じような見解は見かけなかった。そのため、独善的な解釈に他ならず、全く検討違いのことを言っているのかもしれない。最初にも述べたが、間違いであれば、識者の方には、是非ご指摘いただきたい。