共同親権の問題。第 37 回日司連中央研修会 「家族法~多様化する家族と司法書士~」 を聴講して

12/10(土)は、第 37 回日司連中央研修会 「家族法~多様化する家族と司法書士~」 を聴講。

講師は、二宮周平先生(立命館大学法学部名誉教授)

この時期に行う家族法制の研修会で、共同親権に賛成している二宮先生の講演なので見に行かなければと行ってきました。

二宮先生は、戸籍や家族法制に関しては非常に合理的な考えを持つ研究者であり、前に千葉で行った全青司関東ブロック研修の講師にお招きしたこともあるほど、好きな学者さんの一人です。

ただ、共同親権に関してだけ、当事者目線が欠けているのが気になっていました。

聞いてみると案の定、実情が見えてない講演内容でした。
質疑応答の時間がなかったので、問いただせなかった疑問がたくさんあります。
思ったことについて、つらつら書いていきます。

まず、離婚後単独親権が、他者の言うことを聞かなくても良いから「楽な子育て」という説明が、一番納得いかなかった。

はぁ?
楽な子育て?

ひとり親は、半分が貧困世帯。
お金もそうだけど、時間のやりくりも大変。
一人で育児家事もやって、さらに仕事もされている方が沢山いる。
養育費が支払われてなくても、苦労を見せないようにと、心を砕いている方も沢山いる。
体力・気力をフルに使って家庭を維持している。

それを「楽」って何?
困窮しながらも、頑張って子育てをしている家庭への侮蔑だよ?

離婚後の単独親権について、「非親権者をあらかじめ排除し、父母の共同を否定する仕組」みという説明。
って、現行法でも、父母の共同は「排除」されてないよ。
合意による共同養育は可能でしょ。
というか実際に共同で養育している人もいる。
例えば、養育費の支払いをしている別居親や面会交流が少ないと言っても、2〜3割程度は出来ているでしょ。そこを無視してどうする。

「離婚後共同親権になれば、法に明記されたことが、人々の共通の認識として社会に定着する契機になる」というけど、法律で気持ちをコントロールできないよ。
法によって感化される人もいるが、意に介しない人もいる。

養育費の支払いは、別居親の義務。
同居親による拒絶ではなく、別居親の養育放棄でしょ。
それ以外の何だというのか。

だいたい民法766条はどこにいった?
離婚後共同親権に賛成する方って、何故か民法766条が無視される傾向にあります。
共同養育の精神は、既に民法766条で取り入れられてますけどー。

大きな問題は、理想論で法改正すること。
子を虐待する親もいる。
子に無関心な親もいる。
子を、別居親の支配に利用する人もいる。
共同親権にすることで、同居親や子の利益が害されるおそれがあることが軽視されてます。
現状での法改正は、子にとって危険すぎだよ

法改正された翌日から、共同養育が共通の認識になって、社会が平和になるなんてありえないっしょ。

「子どもの利益が優先」とか、「相手への配慮」と言うが、相互扶助できない人間関係だからこそ、離婚に至ることがある。
共同養育をするだけの信頼関係がないケースへの理解が、圧倒的に足りてない。

理念に反した濫用的な親権行使をしても、別居親は何も困らない。
自分のやりたいことを押しつけるだけなのだから。
犠牲になるのは、子どもと同居親。
このアンバランスは。大きな問題でしょ。

「DVや虐待を、家裁の調停や審判でスクリーニングする」というが、9割が協議離婚の日本では、スクリーニングは現実的に不可能ではないか。
離婚は全て家庭裁判所の決定を要するという法改正も同時にやらないと無理。
原則単独親権、共同親権にするには家裁の許可が必要とかいう制度を想定しているのだろうか

ついでに言えば、現在の制度でも、DVや児童虐待案件に面会交流が行われてます。
そもそも、排除可能なの?

また、フレンドリーペアレントルールの下では、児童虐待やDVの主張は、親権剥奪の論拠とされてしまう。
オーストラリアでは、フレンドリーピアレントルールについて、見直しがされた。
ところが、法制審の議論で、フレンドリーペアレントについて、「一つのファクターとして考慮するということはあり得るのかなと 」という発言もあった。
海外の失敗に学ばない法制度を入れてどうする!

質疑の時間があれば、諸々の問題点を、特に、単独親権が「楽な子育て」って発言の根拠を聞きたかったけど、質疑応答の時間はなし。
その後のパネルディスカッションでも言及なかったので、単独親権が楽な子育て、というトンデモナイ説が、垂れ流されたまま。

この講義を聴いて、間違った認識を持った司法書士が増えたらどうする。

大丈夫か、日本司法書士会連合会!

(2022年12月19日7:45追記)
今回の研修会は、共同親権に特化した研修ではありません。

他に、「選択的夫婦別姓」、「同性婚」、「トランスジェンダーの法的性別の変更」、「子どもの意見表明権」、「提供型生殖補助医療と子の出自を知る権利」が扱われました。 これらの内容は、概ねよかったと思います。
その分、共同親権の残念さが際立っていました。

共同親権の問題。第 37 回日司連中央研修会 「家族法~多様化する家族と司法書士~」 を聴講して” に対して2件のコメントがあります。

  1. SN より:

    ひとり親です。
    共同親権をすごく心配してます。
    ひとり親家庭の課題と、共同親権の問題点について、深く理解された文章に頷きながら読ませていただきました。

  2. さーたん より:

    ツイッターで共同親権派、単独親権派、モラの被害者を眺めてますが、発達障害の症状を抱えている人が一定割合でいそうな気がします
    発達障害の場合、文字通り受け取ってしまう特性により民法766条の背景に込められた思いなど読み取ることはできません
    親権周りは発達障害のことを想定した条文の書き方にしたほうがいいかなと個人的には思います

    なお、発達障害持ちの場合、どちらかが親権者になったら、そのまま毒親コースに突入で、子供が会いたがってるのに毒親メソッドを駆使して合わせない話もよく聞きます
    もっとも、一緒にいたらいたで、理解ある彼氏の漫画で言われているようなDVルートになり、発達障害の特性ゆえに弁護士の胃に穴が開くなんて話もよく聞くので、一緒にいても地獄だし、離婚調停しても地獄なんでどーにもならないのですが…
    (精神保健福祉士や精神障碍者向け作業所で長く働いている人だと発達障害の対応は慣れているので、弁護士がやるよりは適してはいます)

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